カラカサン~移住女性のためのエンパワメントセンターを訪れて
カラカサンは、日本国内での、家庭内、家庭外の差別、偏見により、自尊心に傷を負った移住女性が、同じ境遇にある人同士の相互のかかわりの中で癒され、人としての尊厳を取り戻し、自分自身、そして、それを取り巻く環境を変えていく力を回復していくことを目指す団体です。スタッフはほとんどが、元相談者であったフィリピンの女性です。現在では、女性のサポートのみでなく、その子どもたちにも焦点をあてた活動に取り組んでいるとのことでした。
今回は、カラカサンの活動を中心となって支えてきた、鈴木健さんにお話を伺いました。鈴木さんのお話には、フィリピンから来た女性の抱える問題、それと向き合ってきた鈴木さんの何年もの思いが、あふれていました。
もっとも心に響いたのは、「エンパメントとは、ひどい暴力を受けてきた女性が、笑顔を取り戻すことなんじゃないかと思うんです」「もともと明るく、優しく、温かい、彼女たちのありのままでいてほしい」という言葉でした。鈴木さんがフィリピンの方と出会ったのは、高校生のときであり、「何かをしてあげよう」という思いを持って活動を始めたわけではありません。ご自身も、多くのことを抱えながら、それと闘いながら生きている中で出会い、一緒にお酒を飲んだり、話をしたり、人としての付き合いを続けてきたその延長で、現在があるそうです。信頼関係があるからこそ、人として、大切に思うからこその言葉であり、その言葉は、人としての愛情にあふれていました。
私の中で、エンパメント、心のケアに対して、「何かしてあげる」「助けてあげる」というイメージが強かったこともあり、鈴木さんの一言ひとことが、自分の心にグサリグサリと突き刺さるのが分かりました。上から何かをするわけではなく、課題を受け止め、一緒に歩いていく、その姿が、私にとって、とても印象的でした。何か行動を起こすとき、それが社会を変える力になるとき、一番重要なのは、それを起こす人の、人としての深さなのではないかと、強く思いました。
支えるということは、「一方的にしてあげること」ではなく、お互いが、人として、必要としあう関係の中でこそ、生まれるものであり、支えあい、お互いの生きる力につながるからこそ続いていくものであるように思います。小さくても、強いつながりをつくり、それを積み重ねていくこと、そして、同じように活動している人たちとつながっていくことで、点が面になり、社会を変えていく大きな力になるのではないか、今回の訪問で、そのことを強く感じました。
親子のひろば「まんま」を訪れて
本年度助成団体のひとつである、親子のひろば「まんま」は、子育て支援の中でも、特に、子育て中のお母さんたちが、安心して子どもと一緒にいられる場所、何でも本音を言える場所、一緒に子育てを楽しめる場所を目指して、子育て中のお母さんたちの活動の中から生まれてきた親子の居場所です。当初、子育て支援というと、子どもに対する直接的な活動ばかり思い浮かべてきた部分があったため、今回、運営責任者である金子さんのお話を伺ったことで、いかに子育て中のお母さんをサポートすることが子どもたちの支援において重要になるのかということを知ることができ、現場の活動において本当に必要なものを読み取る見方を教えていただいたように思います。
「まんま」の活動を見て、大きな可能性であると感じたのは、「まんま」が、居場所でありながら、循環型を目指しているという点でした。「まんま」は「まんま」であること、あり続けることが目的ではありません。「まんま」は、「まんま」という場を媒体に人が集まり、そこでの出会いや、一緒に行う活動を通して、自分たちが、住んでいる地域において、「まんま」なしに、自らつながりを生み出し、抱える問題を解決していけるよう、そのきっかけとなる場づくりを目指しています。同じ人が長い間「まんま」にとどまるのではなく、「まんま」で自ら動き出す力を得たお母さんたちと交代でまた新しいお母さんが入り、力をつけていくことができるような仕組みづくり、人づくりのできる場としてあることを目指しています。人が力をつけて、自ら生きる環境を変えていくことができるきっかけとなる仕組みづくりこそ、これからの社会において、必要となってくるということをお話の中で強く感じました。
「まんま」のような活動を行っている団体がモデルとなり、多くの団体が協力し、同じように現場で必要とされる活動を積極的に生み出していくことができる人づくり、土壌づくりをしていくことができたら、社会はもっと生きやすく、優しい社会になっていくのではないかと思い、力強い活動に大きな可能性を見出しました。
ことぶき学童保育を訪ねて
大学3年生の時、初めて寿町のことを知り、一度は訪れたいと思っていた町に、3年越しで行くことができました。自分自身、隅田川沿いの野宿者支援の現場には何度も立ちあったことがあり、野宿者・日雇い労働者であるおじさんたちとおしゃべりをするほどだったので、寿町に行く際にも、まったくと言って良いほど抵抗はありませんでした。
しかし、今回ことぶき学童保育を探して一人で雨の寿町を30分以上歩き回っていた際、なんともいえない不安に襲われ、必要以上に、自分が神経質になっているのが分かりました。そのこともあり、ようやくことぶき学童保育にたどり着いた瞬間、なんともいえない安堵感・安心感を得ました。入ってすぐに、指導員の「のりたま」さん、石井さんがあたたかく迎えいれてくださり、中は家庭の雰囲気のあふれるとても安心できる空間でした。入った瞬間に感じた安心感、それは、子どもたちが学童に来たときに感じるものと同じではないかと強く感じたことを覚えています。
ことぶき学童保育に来る子どもたちの中には、外国籍の子どもも多くいます。在留資格の関係で、親御さんが拘束されてしまったり、突然今日の明日で母国に帰ることになる子どもたちも少なくないといいます。そのように、生活自体が安定しない中、常にどこかで不安を抱えながら生きる子どもたちにとって、ことぶき学童保育は、誰からも邪魔されず、そして、傷つけられることなく安心していられる場所・安心して「子ども」でいられる場所になっているのではないかと感じました。
学童に入った瞬間、守られているような感覚になったというのは、物理的なものもありますが、何よりも、そこにいる石井さん・のりたまさんの器の大きさによるものなのではないかと思います。外国籍の家庭や生活保護を受けている家庭は、そうでない家庭と同じように振舞っていても、偏見を持って見られてしまうことがあります。子どもたちには何の非もないのに、何もしていなくてもレッテルを貼られる感覚を、日常生活の中で、敏感に感じているのではないか、そのように感じれば感じるほど、ことぶきの子どもたちの明るさの持つ意味、そして、その笑顔を生み出すことのできる石井さん・のりたまさんのされていることの意味の大きさを改めて感じます。
「どんな子も、安心して生きられるように」。
国際協力の現場では、よく聴かれる言葉です。日本の中にも、安心して生きられない子どもたちがいること・子どもたち、それぞれのいのちの重みに差はないこと、このことをいかに周囲に伝え、いかに自分の周りから変えていけるのか、一生をかけて追求したい自分自身のテーマの新たなスタート地点に立ったような思いです。
ままとんきっず訪問レポート
子育て中のママたちに必要な情報を、と、当事者のお母さんたちが始めた情報誌づくりがきっかけとなって始まったままとんきっずは、今年で14年目を迎え、活動はさらに多岐にわたるようになってきています。今では、子育てママのサロンを毎日開くなど、子育て中のママの立場から必要なものが提案され、形にされています。
ままとんきっずを訪問し、お話を伺っている中で最も心に残ったのは、「子育て中、専門家のアドバイスよりも普通の何気ない会話の方が嬉しかった」という言葉でした。ままとんきっずの設立当初からかかわっている有北さんは、自分が子育てで苦しい思いをしているとき、専門家のアドバイスよりも、偶然交わした何気ない会話の中での、「子育てはそんなもの。みんな同じ」という言葉の方が、ずっと心を楽にしてくれたと言います。「思いを共有できる相手」「一緒にがんばれる仲間」の大切さを感じ、その思いを軸に、ひとつずつその思いを胸に、ひとつずつ、子育て中のママに必要なことを形に移してきました。
子育てを通して、子どもたちのための「ママ」に専念をするのではなく、子どもと共に自分も育てる、そのように感じることを受け止め、実践していくことのできる場を、ままとんきっずは目指しているように思います。
子育ては、子どものために、自らを犠牲にすることではなく、一緒に自分も育っていくこと、そのような価値観に転換できる良い機会なのかなと、お話を伺っていて感じました。「本当はいつでも自分を育て続けていたくて、そう感じることはあたりまえのことなのに、『大人』になると、それを感じてはいけないような雰囲気があるのかもしれない」と、、自分の周りにある環境に思いをめぐらせていました。
本当は、一人ひとり、赤ちゃんも、子どもも、大人でさえも一生をかけて自分を育て続けていくものであり、すべての人が、「自分のために」生きていい、そんなメッセージを受け取ったような気がします。
赤ちゃんのため・子どものために生きるのではなく、一緒に育ちながら、子どもたちのまわりにいるすべての人が「自分を生きる」こと、それを認められるようになる場所がままとんきっずであるように感じています。「自分を生きること」が、遠回りでありそうで、実は、子どもたちとよりよい関係を築いていく近道なのではないかと考えながら帰りました。
大人にとっても、子どもにとっても、「自分を生きられる」場所、「自分を生きる」ことを認められる場所が増えていけば、もっと生きやすい社会になり、人と人が、お互い良い関係を築くことができるようになるのではないでしょうか。
「そんな社会を築くために、自分は何をしていくのか」
大切な問いを頂いて帰ってきたように思います。
インターン期間を終えて
8ヶ月間、子どもファンドにかかわることで、毎日、いろいろなことを感じ、考え、体験してきました。インターンで学んだことは、数え切れないほどあります。その中で、一番自分にとって大きかったこと、それは、子どもたちの人権や心を守るために、強い信念を持って、日々活動をしている人たちの間にいることで、「自分の信念を持ってまっすぐ進むこと」「妥協しないこと」「足もとから、こつこつと積み重ねること」の大切さを教えていただいたことでした。
インターンを始める際にも心のどこかでは、なりたい自分があり、貫きたい信念があり、生きたい道があり。でも、その道に、まっすぐ進んでいいのか、迷いや不安が、ありました。
小さい頃から、私が一番得意なこと、それは「地道にこつこつ続けること」でした。
「ほかの人よりも、何かをやるのに、時間がかかる。だから人よりたくさんやりたい」
昔から、そんな思いで毎日を過ごしてきました。思いはあって、それだけ努力もしたい自分がいるのに、どこか、それでいいのか、自信がありませんでした。
そんな中で、インターン活動をさせていただき、子どもファンドに関わる方々の姿に、大きく影響を与えていただきました。
志を持って、一歩一歩積み重ねていくことが、遠回りのようで、実は、一番確実に、社会を変えていく力になるということを、実感することができました。「自分の思いを持って、まっすぐ進んでいこう」と、自分のしてきたこと・そして今ある自分に、自信を持てるようになりました。
「すべての子どもたちが、周りにいてくれる人たちが、自分自身・自分の人生に意味を見出すことができるように、そのために動ける人になりたい」
この夢を持って、どんなに遠回りをしたとしても、足もとにある一歩一歩を大事に、精一杯生きていきたいと思います。
出会ったすべての方々に、心から、ありがとうございました。
桑名さん プロフィール
2006年度日産NPOラーニング奨学生として、活動させていただくことになりました、桑名宏美と申します。私は、大学では教育学を専攻し、学校教育、障がいを持った子どもの教育、国際理解教育など、広い範囲にわたって勉強してきました。現在大学院では、国際理解教育・開発教育の中の参加型学習における「場」の力(居場所としての学習プログラム)に注目をし、研究を進めています。
私は、NPO、NGOの活動に昔から興味を持っており、いろいろな団体のことを調べたり、活動に参加したりしてきました。いろいろな方からお話を伺う中で、皆さんが、必ず口にされることが、財政基盤の弱さと、NPO、NGOがそれぞれ単独で行動することによって、できることに限界ができてしまうという、ネットワークの弱さでした。その課題を解決し、より多くの方に活動していただくためには何ができるのか、実際に現場で活動させていただき、多くの方にお話を伺うことを通して学び、考えたいと思ったことから、今回の活動に応募させていただきました。できるだけ多くのことを学ぶことができるように、一つひとつのことにじっくりと向き合い、この活動を通して、自分の足元から行動に移していける基盤をつくりたいと思っています。どうぞ宜しくお願いします。
第9期日産NPOラーニング奨学生 桑名宏美